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- 自己破産者と禁治産者・準禁治産者は違うの?
- 禁治産制度・準禁治産制度は、現在は存在しない
- 自己破産と禁治産者・準禁治産者を比較すると?
この記事では、「自己破産者と禁治産者・準禁治産者の違い」について解説していきます。
といっても、「禁治産者ってなに?」とピンと来ない人も多いかもしれませんね。
それもそのはず。
禁治産者や準禁治産者という仕組みは、実は1999年の法改正で無くなっています。現在は存在しない制度ですから、知らない人が多いのも当然です。
しかし調べてみると、この昔の制度が、今もなお、「自己破産の間違ったイメージ」の根底にあることがわかりました。
“なぜ私たちは、自己破産のことを必要以上に恐れてしまうのか”…その答えが、今は廃止された「禁治産者」や「準禁治産者」にあったのです。
一体どういう事なのか、順を追ってお話していきます。
戸籍や住民票に傷、選挙権剥奪…自己破産の間違った噂は一体どこから?
「自己破産には、なぜこんなにも“間違った噂”が多いのだろう?」
こんな疑問を持ったのが、今回のことのはじまりです。
自己破産には、いろいろな“間違った噂”があります。
- 自己破産すると住民票に記録が残る
- 自己破産すると戸籍に傷がつく
- 自己破産すると、子どもの結婚や就職にも悪影響が出る
- 自己破産すると、選挙権が無くなる
…など
こうした話は、いずれも「まったく当てはまらない」「一切生じない」話です。
しかし考えてみれば、これは少し妙な話です。
「まったく当てはまらない、間違った噂話」が、一体どこから出てきたのでしょうか?
自己破産の間違った噂の原因は「禁治産者・準禁治産者」制度?
調べてみたところ、この間違った噂の原因が、かつてあった「禁治産者」制度ではないか…という指摘を見つけました。
自己破産手続きというものに対しては、未だに多くの誤解があるように感じます。
- もう預金口座作れなくなるんですよね?
- 戸籍に載るんですよね?
- 選挙権失くなるんですよね?
これ、たまに聞かれるのですが、すべてガセです。
おそらくこれは、平成12年よりも前に存在していた「禁治産者(きんちさんしゃ)」制度がそうだったので、破産について、その辺と混同しているのかなあと思っています。
この他には、自己破産したことが戸籍や住民票に載ったりすることはありませんし、選挙権が失われることも当然ありません。なお、自己破産すると禁治産者になるというようなことを言われる方もいらっしゃいますが、そもそも禁治産者という制度自体が現在は存在しませんので、そのようなことは一切ありません。
もしかすると、自己破産と禁治産者を混同してしまった人が、
「自己破産すると選挙権が無くなるらしいよ?」
「自己破産すると戸籍に書かれて、一生傷が残るよ。子供も結婚できなくなるし…」
…と、良かれと思って話をしてしまい、それがネット等で拡散したのかもしれません。
自己破産には、間違った噂がたくさんあります。
- 自己破産すると住民票に記録が残る
- 自己破産すると戸籍に傷がつく
- 自己破産すると、子どもの結婚や就職にも悪影響が出る
- 自己破産すると、選挙権が無くなる
…など
このような事は、実際には自己破産をしても起こりません。
自己破産は、想像されるほど悪い手続きではありません。
返済や支払いに困り、自己破産を検討している方は、まずは気軽に、弁護士や司法書士に相談してみましょう。
詳しい法律専門家に、「本当のこと」を教えてもらうことが、まずは何よりも重要です。
禁治産者・準禁治産者とは?自己破産者とはどう違う?
改めて、
- 「禁治産者・準禁治産者とは何か」
- 「自己破産するとどうなるか」
- 「禁治産者・準禁治産者と自己破産者の違い」
を整理してみましょう。
この3つがわかると、「自己破産デマ」の正体も見えてくるはずです。
禁治産者・準禁治産者とは何か
まずは、「禁治産者」とは何か、確認していきましょう。
ブリタニカ国際大百科事典の解説を見てみます。
心神喪失の常況にある者で,一定の利害関係人からの申し立てにより家庭裁判所が禁治産宣告を言い渡した者。1999年の民法改正までの制限行為能力者の一種(→行為能力)。改正により禁治産者という呼称は廃止され,成年被後見人と呼ばれることとなった(→成年後見制度)
- 心神喪失の状態にあり、家庭裁判所が禁治産宣言を言い渡した人
- 制限行為能力者の一種
…とありますね。
簡単に言い直せば、
- 「認知症や精神疾患などで、自分で正常な判断ができない人」が対象
- 家族などが家庭裁判所に申し立てることで、その人を「禁治産者」にできる
- 「禁治産者」になった人は、契約を結んだり、法律行為を自分で行えなくなる
…といったことになります。
たとえば、
「認知症のおばあちゃんが悪質な販売業者に騙されて、50万円の羽毛布団を買わされてしまった」
といったことを防ぐために、禁治産者制度がありました。(現在は、成年後見人制度に変わっています)
禁治産者・準禁治産者の制限行為と欠格条項
禁治産者や準禁治産者になると、さまざまな制限が加えられます。
制限内容は非常に多く、約150にもなる“欠格条項”が、いろいろな法律に組み込まれていたそうです。
明治以来のこの制度では、心神喪失状態の人に裁判所が禁治産と宣告すると、さまざまな法律行為が制限されました。選挙権含め、約150にも上る「欠格条項」がありました。「ただし禁治産者を除く」というような条文がさまざまな法律に書き込まれていたのです。
あまりにも膨大な欠格条項がありますが、
- 契約ができなくなる
- 遺産分割などの法律行為ができなくなる
- 選挙権がなくなる
- 戸籍に記載される
…といったことが生じたようです。
禁治産者・準禁治産者制度は問題アリ!1999年に廃止
禁治産者制度は、明治期に作られ、改定されないまま残っていたものです。
明治29年(1896年)に定められたものですが、当時の日本は、まだ「男尊女卑」「お家制度」の時代。まだ女性参政権すらありませんでした。
これほど古い時代の価値観・考え方がベースになっていますから、当然、現代にはそぐわない部分もあります。
そこで、1999年になってようやく、法律(民法)が改正され、禁治産者制度は廃止⇒成年後見人制度へと移り変わりました。
(…略…)禁治産及び準禁治産の宣告を受けると戸籍に記載されるため,関係者が制度の利用に抵抗を感じるといった問題点が指摘されていました。
したがって,これまでの「禁治産」,「準禁治産」という名称を「後見」,「保佐」という名称に変えたほか,「補助」という認知症などによる軽い精神上の障害のある方を対象とした新しい制度ができました。出典:最近,成年後見制度ができたと聞きましたが,今までの禁治産者制度や準禁治産者制度とどのように違うのですか。-鹿児島地方法務局
自己破産しても禁治産者にならない!
つづいて、自己破産した場合にどうなるのか見ていきましょう。
詳しくは、以下の記事でもまとめていくので、今回はポイントを結論に絞って解説していきます。
自己破産をすると…
- すべての返済や支払いが免除される
- 手続き期間中のみ、一定の資格が制限される
- 一定以上の財産をもっている場合、破産申し立て時点での財産が一部だけ没収される(破産財団に組み込まれる)
- 生活や仕事に必要な財産は、没収されない
- 一定以上の財産をもっていない場合、財産の没収がされない
- 破産後に手にした財産は、自分のものとして、自由に使って良い
- 破産したことが官報に掲載される。ただし、官報が見られることは、ほとんど無い
- 5年~7年ほどの間、ブラックリストになり、借金ができなくなる(期間が過ぎれば解除される)
おおまかな解説ですが、自己破産をすると、このような事が生じます。選挙権の制限や、戸籍・住民票への記載などはありません。
自己破産者と禁治産者を比較すると…
それでは最後に、自己破産者と禁治産者を比較してみましょう。
自己破産者と禁治産者の違い
自己破産者 (自己破産制度) |
禁治産者・準禁治産者 (禁治産制度) |
|
現存するか | 現在もある | 1999年に廃止 |
対象になる人 | 自分の意志で申し立てを行い、破産手続き開始決定を受けた人 | 心神喪失の状態にあり、家族などの判断により家庭裁判所に申し立てが行われ、裁判所から禁治産宣告を受けた人。 |
借金など返済 | 原則として全額免除 | 減額も免除もされない |
財産 | 一定以上の財産を持っている場合は精算されるが、財産がない場合は精算されない。また、破産後に手にした財産は自分のものにできる。 | 重要な財産上の行為は、代理人(後見人)が行うことになる。 |
ブラックリスト | 5年~7年 | ならない |
官報 | 掲載される | 掲載される |
戸籍・住民票 | 記載されない | 記載される |
選挙権 | 制限されない | 制限される |
制限行為 | 手続き期間中のみ、一部の資格が制限される | 契約・法律行為など約150の行為制限 |
こうして比較してみると、禁治産者と自己破産者には、共通する部分がまったくありません。
もしかすると、「破産者」と「禁治産者」は、“何となく言葉のイメージが似ている”から、混同されてしまう部分があったのかもしれません。
しかし実際には、まったく別の手続きです。
そもそも、禁治産者・準禁治産者という存在そのものが、今は無いわけですから、破産しようがしまいが、禁治産者になることは絶対に無いのです。
禁治産者と自己破産者を比較するのは、たとえるならば、「馬車と自動車の比較」みたいなものでしょう。
「車を買おうと思っているんだけど、馬車と自動車はどう違うの?」
なんて聞かれたら、答えに困ってしまいますよね。
何もかも違うからです。
明治の常識、令和の非常識
明治時代にはじめて自動車を見た人が、「自動車に馬のエサ(飼い葉)を食べさせようとした」…というジョークを、どこかで聞いた覚えがあります。
現代の私たちにとっては笑い話ですが、当時の人は本気だったのかもしれません。明治時代の農村なら、「動くもの=エサを食べるもの」だったのでしょう。
禁治産者と自己破産者の違いも、これと同じ話だと思います。
「自己破産すると住民票に載るの?」という疑問は、「自動車を動かすには、どのくらい飼い葉を食べさせればいいの?」という疑問と同じくらい、おかしな話です。
明治時代の常識で、現代(令和)の社会の仕組みを考えているからです。
「自己破産すると住民票や戸籍に載る、選挙権が無くなる」といった噂が、どれも“明治の常識=令和の非常識”と言っても良いでしょう。
ただの知識なら、笑い話にしたり、「ひとつ勉強になった」で済ませられます。
しかし、
これから自己破産をしようと考えている
借金返済や支払いに追われており、破産するかもしれない
…といった人にとっては、笑い話ではありません。
じぶんの人生を左右する大きな出来事を、「明治の常識=令和の非常識」で考えてしまっては、大失敗は避けられないからです。
「返済や支払いに困っている」
「お金を返しきれず、自己破産しようか迷っている」
こうした方は、ぜひ一度は必ず、弁護士・司法書士に相談してみましょう。
そして、自分の考えや理解が正しいのか、それとも「古い常識の思い込み」なのかを確認し、自分にあった解決策を教えてもらいましょう。