史上最大?国家予算5年分の借金返済免除と、知られざる英雄のエピソード

投稿日:2017年12月13日 更新日:

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★この記事を読んでわかること
  • かつて日本は、第二次大戦の際の巨額の借金を“返済免除”してもらったことがある。
  • 返済を免除してくれたのは、タイ王国。「苦しい状況の日本から借金を取り立てるより、返済を免除したほうが、将来的にプラスになる」との判断があった…という説も。
  • 結果として、日本はタイの輸出先第一位、輸入元第二位という強力なパートナーに成長。
  • 債務整理や自己破産など借金返済減額・免除も、めぐりめぐって社会全体のためになる制度。

普段は皆様のお役に立てるような記事をお届けしていますが、今回は、筆者の個人的な思い入れから、一つコラムをお届けさせていただきます。

当サイトでは、「債務整理」という借金などの返済免除・減額などの手続きについて、さまざまな角度から解説を行っています。そうした借金返済の免除・減額などのエピソードについて調べるうちに、大変興味深い、そして壮大な、知られざる歴史の物語を発見しました。

その物語の“債務者”…つまり借金を返す側であり、その返済の大幅な免除を受けたのは、ほかでもない、私たちの日本国。
そして“債権者”…お金を貸した側は、タイ王国。

その借金の金額は、貸した側であるタイ王国にとって、当時の国家予算の5年分に相当する、10憶バーツとも、また20憶バーツともいわれています。(※バーツ … タイ王国の通貨単位)。

 

これほどの巨額の借金を、なぜ日本は背負うことになったのでしょうか。
そして、なぜタイ王国は、これほどの債権を、ほとんど免除する決断を下したのでしょうか。

 

そこには、債務整理や自己破産の“本質的な目的”とも言える、“借金返済を免除することの社会的な意義”が垣間見える壮大なエピソードと、一人の“知られざる英雄”の姿がありました。

 

第二次大戦当時、日本とタイは同盟国だった…日泰攻守同盟条約とは

時は昭和16年、12月27日。

 

数週間前に「開戦の詔勅(米國及英國ニ對スル宣戰ノ詔書)()」を発し、米英二か国に対して宣戦布告した日本は、大東亜戦争の火蓋を切ったばかりの頃です。

日本とタイ王国とは、ある条約を結びました。
「日泰攻守同盟条約」です。

当時の国際情勢下では、西欧列強によるアジア諸国への植民地支配が、なかば平然と行われていました。そんな時代において、アジアで独立国家を保っていたのが、私たちの日本(当時の大日本帝国)、そしてタイ王国です。

そうした共通性もあってか、タイ王国は日本に対しておおむね好意的でした。
同年5月に発生した「タイ・フランス領インドシナ紛争」が、日本の介入によって講和が成立したことも、影響したのかもしれません。

 

事前調整のズレの結果、タイ義勇軍および同国警察と日本軍との間で戦闘も起きてしまいましたが、事態はすぐに収束し、日本とタイ王国は同盟を結ぶことになりました。

 

その同盟関係のもとに行われた出来事の一つ…それが、タイ王国から日本に対する、“戦費の融資(貸付)”です。

バーツ借款によって行われたこの融資は、資料によって10憶バーツとも、20憶バーツとも記載されています。
しかし、当時のタイ王国の国家予算が2億バーツほどだったことを考えると、いかに巨額の融資だったのかは、想像に難くありません。

 

タイ王国は、国家予算5年分~10年分もの自国通貨を、一挙に発行することに。その結果、莫大なインフレを引き起こし、タイ王国の国民も、たいへんな苦労を味わったと伝えられています。

 

日本はなぜ、莫大な戦費を借金したのか

タイ王国の国家予算5年分とも、10年分ともいわれる“巨額の借金”
第二次大戦の戦費として、大日本帝国はこの借金を背負いました。

なぜ日本は、これほどの借金を背負ってまで、戦う必要があったのでしょうか。

その理由は諸説ありますが、筆者としては、「そうしなければ、国民・国家が生き残れない状況だったから」ではないかと考えています。

この考え方は、第二次大戦において敵国であった当時のアメリカ、その軍司令官であったダグラス・マッカーサーによっても証言されています。

"There is practically nothing indigenous to Japan except the silkworm. They lack cotton, they lack wool, they lack petroleum products, they lack tin, they lack rubber, they lack great many other things, all of which was in the Asiatic basin.
They feared that if those supplies were cut off, there would be 10 to 12 million people unoccupied in Japan. Their purpose, therefore in going to war was karagely dictated by security."

出典:ダグラス・マッカーサー 1951年5月3日 米国上院議会 軍事外交合同委員会

 

当時の日本には、絹産業以外の固有の資源がまったくありませんでした。太平洋戦争の開戦前、「ABCD包囲網」によって資源の供給を絶たれてしまった日本には、1000万人から1200万人の失業者(10 to 12 million people unoccupied)が出ると考えられました。

 

「戦わなければ、生き残れない」
「しかし、戦うためのお金が足りない」

それが、当時の日本の置かれた状況だったのではないでしょうか。
だからこそ、同盟関係を結んだタイ王国から、10憶バーツとも20憶バーツともいわれる、巨額の借金をして、戦いに臨んだのではないでしょうか。

そしてタイ王国もまた、「このままでは、西欧列強の植民地支配にさらされてしまう」という危機感を共有していたからこそ、急激なインフレのリスクを背負って、ともに苦労を味わう覚悟で、巨額の融資を決定したのではないでしょうか。

 

終戦、そして「借金返済の交渉」開始

さて、その後の歴史がどうなったかは、多くの方がご存知でしょう。
いくつもの激戦の末、日本は戦争に敗れてしまいます。ポツダム宣言を受諾した日本は、昭和20年8月15日、軍隊の降伏を宣言し、ここに大戦は終結しました。

 

ですが、「戦いが終わった」といって、すぐに何もかも元通りになるわけではありません。
空襲によって焼け野原になった国土を、経済を、そして人々の生活を、立て直す必要があります。

国家再建、そして人々の生活再建のため、大変な努力が行われたそうです。

 

戦後GHQによる占領、そして昭和27年4月28日のサンフランシスコ講和条約 ()発効による主権回復。その後も日本の復興と再建が続き…そして、時は昭和35年。

タイ王国に借りていた巨額の戦費、10憶バーツとも20憶バーツともいわれる借金の、返還交渉がはじまりました。

 

日本を救った“知られざる英雄”の決断!巨額の借金返済交渉の行方は…?

タイ王国の代表として、日本に対する借金返還交渉の場に立ったのは、「ソムアン・サラサス」という人物です。

 

“知られざる英雄”、ソムアン氏のことは、ご存じない方がほとんどでしょう。
ですが、「ゾウのはな子」については、話を聞いたことのある方も、いるのではないでしょうか。

戦後、タイ王国から日本の子供たちに贈られたゾウの一頭。この贈り主こそが、ソムアン氏です。ですが、ソムアン氏が日本に贈ってくれたものは、ゾウだけではありませんでした。

 

昭和35年、日本に対して、戦費の返還を求める「特別円・バーツ交渉」が始まります。
日本から数十憶バーツの巨額の借金を取り立てる、その債権回収の役を担った一人が、ほかでもなくソムアン・サラサス氏、その人でした。

タイ王国からしてみれば、国家予算数年分の巨額の貸付であったこと。
そして、そのために急激なインフレを受け入れ、タイ国民にも大変な苦労があったことは、先ほどもご紹介した通りです。

「何がなんでも、利息をつけて、しっかり借金を取り立てなければ」

と、そう考えるのが普通でしょう。

 

一方の日本は、戦後復興が進んでいたとはいえ、まだまだ苦境の中にありました。
国民はまだ、多くが貧困にあえいでいます。
海外からは、巨額の戦時賠償金が請求されています。
そんな中でも、やっとの思いで手にした昭和東京オリンピックの開催が、4年後の昭和39年に迫っています。

 

当時の日本の大蔵大臣・池田隼人氏は、「今はとても返せない」と、返済の大幅な減額を求めたそうです。

しかし、この話し合いは“借金の返還”です。
借金を借りた証書もあれば、いくら返すという約束もしています。

 

「契約書があって、返す約束がはっきりしている」という点では、私たちのカードローンやキャッシング、住宅ローンや自動車ローンと似ているかもしれません。

「話し合いで借金返済の減額を求めても、応じてもらえる事はほとんどない」と当サイトでは解説していますが、この「特別円・バーツ交渉」でも、同じことが当初は起こりました。

タイ側交渉団の代表者、ワンワイタヤコーン殿下としては、この減額要求を受けることはできません。なぜなら、減額の要求を受けてしまえば、苦労を味わったタイ王国、そして大切なタイ国民に対する裏切りとなってしまうからです。

 

しかし、話し合いがまとまらないか…というその時、一人の人物が声を上げました。先ほどからご紹介している、ソムアン・サラサス氏です。ソムアン氏は、タイ側交渉団の最高顧問として、その場に同席していました。

「これほど気の毒な日本を見ていられない」と一喝し、日本の“借金返済減額要求”を承諾したのです。

その結果、数十億バーツと言われたこの借金は、大幅な返済減額に。
一説には、97%近く…ほとんど全額が返済免除されたとも言われています。

 

「かわいそう…」同情では借金は減額されない?重要なのは「経済生活の再建」

さて、この話には実は“裏話”があります。
タイ王国、そして交渉団最高顧問のソムアン氏は、なぜ巨額の“返済免除”を認めたのでしょうか。

その理由は、いくつかの資料で「日本がかわいそうだったから」といった旨が説明されています。また、ソムアン氏が「日本が気の毒だ」と、交渉の席上で発言したとも言われています。

ですがよく調べてみると、実はこれは“建前”だった可能性があるようです。

もともとソムアン氏は、情勢判断に非常に優れた、たいへん頭の良い人物でした。
そのソムアン氏は、「日本がかわいそうだから借金返済を減額しよう」と言った…という話ですが、実はこれが内心、別のことも考えたのではないか…という話があります。

実はその時、ソムアン氏は、このように考えたそうです。

「あと数年待てば、日本は急激な経済成長を遂げるだろう。そうすれば、日本はかならずタイに大きな利益をもたらすパートナーになるはずだ。しかし、ここで借金の返済を強要してしまえば、日本の再建も、経済成長も台無しになってしまう」

 

つまり、「日本から借金を取り立てること」より、「日本の立て直しを優先して、経済を成長させること」のほうが、“未来のタイ王国にとって”プラスになると計算したのです。

果たして、ソムアン氏の計算は見事に的中しました。
この交渉からほどなくして、日本は高度経済成長期に突入。またたく間に、世界トップクラスの経済大国に成長したからです。

 

そして現在、日本はタイにとって、第一位の輸入相手国、第二位の輸出相手国という、かけがえのない強力なパートナーになりました。

「借金返済を免除して、日本の立て直しを助けよう。」

そう考えたソムアン・サラサス氏の計算は見事に的中し、借金返済とは比べ物にならないほどの、莫大な利益をタイ王国にもたらし続けています。

 

歴史に学ぶ債務整理…借金返済減額・免除は“めぐりめぐって社会のため”に

いかがでしょうか。
この壮大な歴史の物語は、債務整理と自己破産を考えるうえで、とても印象深いエピソードだと筆者は思います。

 

借金は、借りたら絶対に返すもの。
返してもらわなければ、貸したほうも困ってしまう。

確かに、その通りではあるでしょう。
ですが、「返せない人に、無理をして返済させること」は、周りにとって、社会にとって、そして何より未来にとって、良い選択ではない…ということを、歴史的に証明するのが、このエピソードではないでしょうか。

 

債務整理や自己破産の意義は、日本においては、破産法第一条 ()に規定されています。
そこには明確に、“債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ること”と記載されています。

「借金を返せなくなったら、何もかもおしまい」ではなく、「借金を返せなくなった人も、社会の力で、国の力で助ける」。
そうすることが、債務者本人だけでなく、その周りの人や、めぐりめぐって社会全体のためになるのだ…という事ではないでしょうか。

 

もちろん、だからといって野放図に、やりたい放題に借金をして、返せなくなったら自己破産というわけではありません。そうした行動では返済免除が認められないよう、「自己破産の免責不許可事由」という制度もあります。

ですが一方で、「事情があって仕方なく返済不能になってしまった」という場合は、たとえ免責不許可事由に相当する場合(ギャンブルや浪費による借金)でも、返済免除が認められる、“裁量免責”という制度もあります。
また、個人再生や任意整理といった、他の債務整理の手続きでは、借金の理由を問わずに減額が可能となっています。

 

かつてタイ王国に、国家予算5年分とも10年分ともいわれる巨額の返済を、ほとんど免除してもらい、そして今の繁栄を手に入れた日本の一員として…。

「債務整理」や「自己破産」も、決してネガティブなイメージだけでなく、“それによる、社会全体のメリット”にも目を向けて、深い懐で考えたいと、そう感じています。

 

「賢者は歴史に学ぶ」という言葉もあります。
今回ご紹介した、この壮大な歴史の物語が、借金問題の解決や債務整理について、何かのお役に立てれば幸いです。

 

個人的な記事となりましたが、お読みいただき、ありがとうございました。

 

-コラム

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