年金は元々軍事費のためだった!?国立公文書館で検証してみた!

投稿日:2016年12月3日 更新日:

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最近なにかと話題になっている、国民年金。
受給資格を10年に短縮する『改正年金機能強化法』が成立[1]したほか、『公的年金改革法案(年金カット法案)』も、各種メディアを騒がせています。[2]

こうした話題をチェックしながら、ふと、

「そういえば年金っていつからあるんだろう?」

と気になり、調べてみたところ、意外な話を見つけました!

この驚きをシェアしたいと思い、記事にまとめてみます。

いつからあるの?年金の歴史をざっくり見てみよう

それでは順を追って、年金の歴史を見てみましょう。日本年金機構の資料[3]や、社会保険労務士による解説[4]を元に、まとめてみます。

『年金』以前…恩給の時代

1875年 海軍退隠令
1876年 陸軍恩給令
1884年 管理恩給令

年金の“元祖”として、軍人の恩給制度を挙げる資料もあります。[5][7]
恩給制度とは、退役後の軍人に対して支給されるお金のこと。“戦場で傷を負って働けなくなってしまっても、一生を国がサポートする”ということですね。


1939年 船員保険法

“民間船員を対象とした恩給のような制度”です。
当時は国際情勢が非常に不安定な時代。
民間の船も『通商破壊作戦』(敵国の民間船を攻撃し、輸出入に打撃を与える軍事作戦)のターゲットにされる恐れもあり、軍人なみに危険な職業でした。そうした背景もあって、民間の船員にも恩給制度が適用されたのだと思います。

“民間人の老後の費用も、国としてサポートする”という流れは、ここから生まれたのかもしれませんね。

年金のはじまり

1942年 労働者年金保険制度
現在の年金制度につながる、実質的なスタートラインです。工場などに勤務する男性労働者が対象でした。


1944年 厚生年金保険制度
事務職の男性労働者と女性労働者にも、年金の対象が広がりました。


1954年 年金制度の全面改革
これにより、現在の年金に非常に近い形になりました。ただし当時は、自営業者は対象外でした。


1961年 国民年金制度 創設
これまで対象外だった自営業者も対象となり、“国民皆年金制度”が実現。


1985年 『第3号被保険者』が創設
専業主婦(主夫)など、配偶者の収入で暮らしている方のための制度が、新たに創設されました。これにより“全ての国民は、20歳以上で年金に強制加入”という現在の形が出来上がります。


以降も、さまざまな制度改革を経ながら現在の形へとつながっていきます。

1942年以降、かなり頻繁なペースでアップデート(制度改革)されてきた印象です。
個人的には、年金改革はここ数年になって始まったもの…という印象があったので、これだけでも少し意外でした。

年金は軍事費調達のためだった?

長門型戦艦

ここまで年金の歴史を調べてみて、気になった点が一つ…。

『労働者年金保険制度』が始まったのは、1942年(昭和17年)、第二次世界大戦の真っ最中です。
この状況でなぜ、“工場などに勤務する男性労働者”を対象とした年金制度が、創設されたのでしょうか?

これについて調べてみたところ、こんな指摘を見つけました。
『ファム・ポリティックス 2007年夏号』掲載とされる内容を、一部抜粋して紹介します。

遅れること2年、1942年(昭和17年)、厚生年金の前身「労働者年金保険法」が制定された。
太平洋戦争の真っ只中である。
これは、国民への福祉政策として設立されたのではない。
徴収された船員保険、厚生年金の保険料は、特別会計に繰り込まれ、当時の大蔵省預金部 が「運用」した。
要は、「国債」を買って、不足していた軍事費に充てるためだった。

ファム・ポリティックス 2007年夏号 「ツギハギだらけの年金行政」

軍事費のために、『年金』という名目でお金を集めていた…というような説ですね。
極端に言えば、“元から年金は国民にきちんと支給するつもりはなかった”という事にもなります。

果たしてこれは、本当なのでしょうか?
もし本当だったら、ある意味、大問題のような気もしますが…。

検証!国民年金は元々軍事費のため?支給するつもりはあったの?

第二次大戦の真っ只中、1942年にはじまった国民年金制度。これは軍事費を集めるためであり、きちんと支給するつもりは無かったのでは…。

そんな指摘を見つけて、本当はどうだったのか調べてみました。

『国立公文書館』で、当時の法律を調べてみます。

すると…。

1942年、同じ年に制定された『労働者年金保険特別会計法』という法律を見つけました。

年金として集めたお金の、使い道を決めた法律です。本当に軍事費が目的だったのか、この法律を見ればわかりそうです。

労働者年金保険特別会計法
表紙には、天皇陛下の御璽(ぎょじ)も…。[8]
歴史の重みを感じます。

法律の中身を見てみると、さっそくありました。

第二条:
本会計ニ於テハ…(中略)…保険給付費・福祉施設費・事業取扱費・営繕費其ノ他ノ諸費ヲ以テ其ノ歳出トス

第三条:
本会計ニ於ケル歳入総額ノ歳出総額ニ超過スル金額ハ之ヲ積立ツベシ

第四条:
本会計ニ於テ…(中略)…余裕アルトキハ之ヲ国債ヲ以テ保有シ又ハ大蔵省預金部ニ預入ルベシ

労働者年金保険特別会計法2

https://www.digital.archives.go.jp/das/image/F0000000000000040139
労働者年金保険特別会計法・御署名原本・昭和十七年・法律第二十九号 国立公文書館デジタルアーカイブ
※旧字体は当サイトにて新字体に変換

年金として集めたお金の使い道は、『給付』『施設費用』『年金の事業費』などに限定されていた。(第二条)

余った金額も、『積立する』と決められていた。(第三条)

という事がわかります。
確かに、余ったお金で国債の購入もしていたようですが(第四条)、国債を買う=軍事費にする、とは言い切れないと思います。

少なくとも条文を見る限り、軍事費のために年金を集めた、支給する気は無かった…とは言い切れ無さそうです。

他にも、『臨時軍事費特別会計』として、戦争の費用は他の会計とは完全に分離されていたことも、資料調査でわかりました。[6]
こうした面を見ても、『年金=軍事費のため』とは断言できないと思います。

今のほうが問題あり?年金制度の今後に注目

現代の年金制度は、大きな課題を抱えています。増え続ける現役世代の負担、そして未納問題…。

しかし、こうした問題は、『年金が元々軍事費のためで、福祉目的でなかったから』というよりは、『少子高齢化など、現代の社会構造によって生まれた問題』ではないかと思います。

歴史的な経緯がどうあれ、今現在、課題があることに変わりは無いと思います。

お金があっても無くても強制加入

保険料免除・納付猶予などもあるが、必ず認められるとは限らない

かといって、払えず放置しておけば裁判に訴えられ、差し押さえを受けることもある

借金やローンと違い、債務整理もできない

こうした側面もあり、“日々の生活を犠牲にして、将来のために何とか納めている”という方も多いのではないでしょうか。

また、納めたくても納められず、"年金滞納の督促状を片手に、溜め息が出てしまう"方も少なくないと思います。

こうした問題が少しでも改善されるよう、今後の年金制度改革にも、しっかりと注目していきたいですね。

公開日:2016年12月3日

 

脚注、参考資料

-コラム

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