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この記事では、個人再生の「清算価値保証原則」について解説します。
このテーマが気になる方は、「個人再生」について、ある程度はお調べになった人かと思います。そうしたなかで、清算価値保証原則という言葉が出てきて、戸惑ってしまった人も多いでしょう。
清算価値保証原則は、とても難しい仕組みです。
「ほかのサイトで調べたけれど、よくわからなくて…」
「借金相談で教えてもらったんだけど、ちょっとピンと来なくて…」
「財産の価値がどうこう…って話だったけど、私の財産が、個人再生すると没収されるって話なの?」
…そんな疑問もありそうですよね。
実際のところ、「清算価値保証原則」は、なかなかピンと来ない話です。
わかりやすさを心掛けて解説していきますが、少しでも難しいと思ったら、無理をせず、弁護士や司法書士に無料相談で聞いてみてください。
清算価値保証原則は、「個人再生でいくら借金が減らせるか」を決めるルールの一つ
それでは解説をはじめましょう。
「清算価値保証原則」は、個人再生の最低弁済額を決めるためのルール(の一つ)です。
…と言われても、ちょっと何を言っているかわからないですよね。
まず、個人再生は「借金をチャラにする」わけではありません。
「あなたの借金を減らしますよ、でも最低限、○○万円だけは返してくださいね」
という取り決めで、借金を減額するのが、個人再生です。
この「最低限、○○万円だけ返してくださいね」の金額が、“最低弁済額”となります。
最低弁済額の決め方は、裁判所による基準など、細かくはいろいろあるのですが…。
「今持っている財産の価値以上の金額を返さないといけない」
という原則があります。
これが、個人再生の清算価値保証原則です。
(※より正確に言えば、“自己破産した場合に配当に充てられると推定される金額よりも多い金額を”となりますが、この記事では単純化して、「今持っている財産」としていきます)
ほかにもいろいろな減額基準(ルール)があるものの…
個人再生でいくら借金が減らせて、いくら残るのか=“最低弁済額の決め方”には、いろいろなルールがあります。
「個人再生で○○万円の借金減額ができます」と一言で解説するとき、この清算価値保証原則のことは、基本的にあまり触れられません。
別のルールを基準に解説されることが多くなります。そのほうが、イメージが掴みやすいからです。
しかし厳密にいうと、どんな減額ルールをつかう場合でも、
「今持っている財産の価値以上の金額を返さないといけない」
という原則は守らなければなりません。
これが、清算価値保証原則です。
逆に言えば、
今持っている財産の価値 < ほかのルールで計算した場合の最低弁済額
…であれば、今持っている財産の価値は関係なく、「ほかのルールで計算した場合の最低弁済額」が適用されることになります。
清算価値保証原則は財産没収ではなく、「財産を没収されずに済む」ための仕組み
さて、
「今持っている財産の価値以上の金額を返さないといけない」
…これが個人再生の「清算価値保証原則」ですが、
「今持っている財産をお金に換えて返済しないといけない」
という意味ではありません。
あくまで最低弁済額を決めるためのルールですから、「財産を処分せよ」という事ではないのです。
しかも、個人再生の減額後の返済は分割払い(3年~5年)です。
今持っている財産をあわてて売却し、いそいで返済に充てて…なんてことは、しなくて良いのです。もちろん、強制もされません。
清算価値保証原則は自己破産との“公平性”がポイント!
ここからは、すこし仕組み的な話をしたいと思います。
個人再生の「清算価値保証原則」は、自己破産との公平性がポイントになります。
個人再生と自己破産の比較については、次の記事で総合的に扱っていきます。
しかし、今回の「清算価値保証原則」でポイントになるのは、“精算のやりかた”とも言える部分です。
理屈を単純にまとめると、次のようになります。
自己破産は“モノで精算”
⇒持っている財産を売ってお金に換え、債権者に配り、残った返済をゼロにする
個人再生は“お金で精算”
⇒持っている財産を売らなくて良いが、売った場合と同じ金額を返済する
※どちらの場合も「生活に必要な財産」(自由財産・自由財産の拡張)などは除く
わかりやすく、具体的に見ていきましょう。
突然ですが、借金返済に悩む“Aさん”に登場してもらいます。
--Aさん「借金2,000万円もあって、もう返済できない…。オレにあるのは、オヤジから相続した、ちっぽけな田舎の畑だけ。資産価値は350万円。これじゃ売ってもとうてい、2,000万円もの借金は返せない…。」
こうしてAさん、頭を抱えていますが、これは「債務整理」で解決できる悩みです。
債務整理には、自己破産、特定調停、任意整理、個人再生とあります。
しかし、今回は“個人再生の清算価値保証原則”を知るために、Aさんが「自己破産」した場合と、「個人再生」をした場合を見ていきます。
(※なお、今回は“個人再生の清算価値保証原則における、自己破産との公平性”に関する解説に必要な部分だけ、単純化して解説していきます。総合的な比較記事ではないことを、ご了承下さい)
Aさんが自己破産をした場合
Aさんが自己破産すると…
- 借金2,000万円 ⇒ 0円
- 田舎の畑(資産価値350万円) ⇒ 債権者に配当
これを数字で見てみると、次のようになります。
Aさん | 債権者 |
2,000万円の借金がなくなった | Aさんに貸し付けた2,000万円の借金の全額は回収できなかった |
350万円の土地を手放した | Aさんの破産による配当金が350万円 |
1,650万円得をした | 1,650万円損をした |
まずAさんは…
- 借金が2,000万円あるが
- 350万円ぶんの土地を手放すことで、借金が免責された
- 差し引き合計で、「1,650万円ぶんの得」
一方、債権者はというと、
- Aさんが自己破産をしたことにより、2,000万円の債権が回収できなくなった
- Aさんの自己破産により、Aさんの350万円ぶんの土地が換価され、配当を受け取った
- 差し引き合計で、「1,650万円ぶんの損」
ちなみに、「返済が免除される」ことを、自己破産では「免責手続き」と言い、「財産を売ってお金に換え、債権者に配る」ことを「破産手続き」と言います。
免責手続きと破産手続き、二つの効果が合わさった結果、Aさんは自己破産により「1,650万円の得」をしたことになります。
Aさんが個人再生をした場合
さて今度は、Aさんが個人再生をした場合です。
Aさんが個人再生すると…
- 借金2,000万円 ⇒ 清算価値保証原則により、350万円まで減額
- 田舎の畑 ⇒ 手放す必要なし。持ち続けられる
ところで「小規模個人再生」の基準では、“借金2,000万円は300万円に減額”と定められています。
しかし、Aさんは、「350万円ぶんの価値がある、田舎の畑」を持っています。
そして、「今持っている財産の価値以上の金額を返さないといけない」=「再生計画における弁済率が破産における場合の配当率以上でなければならない」という、清算価値保証原則があります。
そのため実際のAさんの借金は、350万円(=持っている土地を換価した金額)まで減額となります。
さて、これを数字だけで見てみると…2000万円の借金が350万円になったので、
“2,000万円の債務が、350万円に圧縮された = 1,650万円ぶんの得”
という計算になります。
お気づきでしょうか?
数字だけみると、実は、自己破産した時と個人再生したときの、“Aさんが得した金額”は同じなのです。裏返せば、“債権者が損をした金額”も同じとなります。
もしも「清算価値保証原則」がなかったら
さて、要点はここからです。
もしも「清算価値保証原則」がなかったら、どうなるのか想像してみましょう。
個人再生の清算価値保証原則がない世界で、Aさんが個人再生すると…
- 借金2,000万円 ⇒ 小規模個人再生の基準で、300万円に減額
- 田舎の畑 ⇒ 手放す必要なし。持ち続けられる
Aさんの借金2,000万円は、「小規模個人再生」の基準に照らし合わせると、300万円に減額と定められています。
そして、ここは“個人再生の清算価値保証原則がない世界”なので、小規模個人再生の減額基準が、そのまま適用されます。
すると…
“2,000万円の債務が、300万円に圧縮された = 1,700万円ぶんの得”
となります。
つまり、
“清算価値保証原則がある現実”のAさん = 1,650万円ぶんの得
“清算価値保証原則がない世界”のAさん = 1,700万円ぶんの得
となり、清算価値保証原則が無いほうが、Aさん(=債務者)はより大きな得をするわけですね。
「それなら、清算価値保証原則なんて無いほうがいいじゃないか!」
…と思えますが、実際、そうとも限りません。
もう一度、現実に戻って、自己破産した場合と、個人再生した場合の比較を見てみましょう。
清算価値保証原則のある現実では…
自己破産した場合
⇒ Aさんは1,650万円ぶんの得
⇒ 債権者は1,650万円ぶんの損
個人再生した場合
⇒ Aさんは1,650万円ぶんの得
⇒ 債権者は1,650万円ぶんの損
清算価値保証原則のある現実では、自己破産した場合も、個人再生をした場合も、「Aさんが得するぶん」=「債権者が損するぶん」は、変わりませんでした。
しかし、もしも清算価値保証原則が無いと…
清算価値保証原則のない世界では…
自己破産した場合
⇒ Aさんは1,650万円ぶんの得
⇒ 債権者は1,650万円ぶんの損
個人再生した場合
⇒ Aさんは1,700万円ぶんの得
⇒ 債権者は1,700万円ぶんの損
「清算価値保証原則がない世界」では、“自己破産よりも、個人再生のほうが、Aさんは得をする”わけですね。
言い換えれば、“自己破産よりも、個人再生のほうが、債権者は損をする”ことになります。
こうなったとき、債権者は、どう考えるでしょうか?
--債権者「個人再生なんてされたくない!どうせ債務整理するなら自己破産しか認めない!」
このように、強く出てくるはずです。
個人再生されると、自己破産された場合より、損が大きくなってしまうからですね。
しかし、個人再生と自己破産の違いは、「損か得か」だけではありません。
個人再生は、“財産を手放さなくて良い”ですし、“免責不許可事由も無い(借金の理由を問われない)”など、自己破産には無いメリットもあります。
Aさんの例でも、自己破産をしたら、「オヤジから相続した畑」を手放すことになりますが…。個人再生では、手放さずに済むわけです。
これが「暮らしている家」でも、「大切な愛車」でも同様です。
個人再生であれば、お金に換えがたい、大切なものも、手元に置いておけるのです。
それにも関わらず、債権者が「個人再生はダメ!自己破産しか認めない!」となると、大変なことになってしまいます。
清算価値保証原則があるから、「個人再生を選ぶ権利」が守られる
清算価値保証原則があることで、「自己破産と個人再生の公平性」が守られます。
この公平性があるからこそ、「自己破産ではなく個人再生で、家や財産を守りながら生活を立て直す」という選択肢が、生きてくるのです。
もちろん、自己破産でも生活は守れますし、仕事を続けることはできます。
また、人によっては「自己破産のほうが、個人再生よりも適切」というケースも多々あります。
しかし大切なのは、個人再生と自己破産の公平性が守られていることです。
どちらの手続も公平だからこそ、「自分に適したほうを、人それぞれ、債務者の立場で選べる」と言っても良いでしょう。