時効の援用は自分でできる?内容証明郵便や消滅時効援用通知書の書き方

投稿日:2018年9月29日 更新日:

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この記事では、借金の消滅時効の援用は弁護士や司法書士・行政書士に依頼せず、自分でできるのかを解説していきます。

時効援用とは、借金などの返済を、時効でゼロ円にする手続きです。借金、ローンなどの各種の返済には時効があり、“時効の起算点”から5年または10年で時効となります。しかし、「消滅時効の援用」という手続きをしなければ、返済義務は無くなりません。

通常、この「時効援用」手続きは、弁護士・司法書士・行政書士に依頼して行います。しかし、自分一人で行うことはできるのでしょうか?

そこで今回は、

時効援用は、自分一人でできるのか
時効援用通知書の書き方、内容証明郵便の送り方

といった情報をお届けしていきます。

消滅時効の援用は「内容証明郵便を送るだけ」ではない

まず、「時効援用は自分でできるのか」という点について解説します。

インターネット上には、

「時効援用は内容証明郵便を送るだけ」
「だから自分で簡単にできる」
「弁護士や司法書士、行政書士に頼る必要はない」

…といった意見を書いている人もいます。ですが、これは決して正しいとは言い切れません。そもそも時効援用は、「ただ書類を送れば良い」という訳ではないからです。おおまかに言って、次の5つのステップが必要になります。

《時効援用で実際に必要なこと》

:債務状況の確認
・債権者の住所、事務所所在地、事業者名などの確認
・時効の起算点の確認
・時効の中断事由の有無の確認
・債務の金額(元金、利息、遅延損害金)の確認

:法律や判例に基づき、時効援用ができるかの判断
・民法第7章第3節(第166条~第174条の2)[1]、関連する最高裁判決(昭和41年4月20日判決など)、場合により商法第522条[2]などの各種法令・判例と照らし合わせ、判断を行います。

:時効援用通知書の起案・作成
・状況に合わせて、適切な時効援用通知書の文面を起案し、内容証明郵便の正式な書式に基づいて作成します。

:時効援用通知書の送達
・内容証明郵便+配達証明郵便にて送達します。

:場合により、債権者からの反論・援用撤回勧告・訴訟に対処する
・内容証明を受けて、債権者が反論、時効援用撤回の勧告、訴訟などを行ってくる場合があります。こうしたリスクに対処していきます。


時効援用は、民法第七章第三節などの法律で定められた、厳格な法的手続きです。そのため実際には、このように、複雑なステップを経て行われる手続きとなります。決して、「内容証明郵便を作って送るだけで済む」という話ではありません。

時効援用の詳しい流れについては、次の記事で解説を行います。

★ネット上には、間違った情報もあります

時効援用は、一般に広く知られた手続きではありません。そのため、間違った解説をしてしまうWEBサイトもあります。

「消滅時効の援用は、内容証明郵便を送るだけ」といった声も、そうした間違いの一つだと言って良いでしょう。

確かに、時効援用の効力を発揮するのは、内容証明郵便だけで十分とされています。しかしそれは、“判決や調停調書などを求める必要が無い”という意味です。「ちょっと書類を作って、郵便局に行って送るだけ」という意味ではないので、ご注意ください。

時効援用を自分で行う場合の注意事項

時効援用は、絶対に成功するものではありません。
そのため、自分で行う場合、どんな失敗のリスクがあるのかも知っておく必要があります。

絶対に避けたいリスクは、次の通りです。

債務承認による時効の中断、時効援用権の喪失
時効の中断を招いしてしまえば、それを起算点として、さらに5年または10年、時効援用ができなくなります。
また、判決を取られた場合、時効はその時点から10年に延長されます。
さらに、時効完成後の債務承認は「時効援用権の喪失」を招き、その債務に対しては、時効援用が今後一切できなくなります。

債権者による時効の阻止
債務の消滅時効は、債権者によって阻止される可能性もあります。

支払督促の申立など裁判上の請求による時効の中断
仮処分・仮差押・仮執行の申し立て
債務承認を取るための郵便・電話・自宅訪問

…など、さまざまな手段があります。

家族や職場に迷惑が掛かること
家族や職場に迷惑が掛かることも、絶対に避けたいポイントです。
時効阻止のため債務承認を得ようと、必死になった債権者が、自宅や職場に訪問してくる可能性もあります。
また、訴訟を起こされ、仕事どころではなくなってしまったり、家族に大変な心配をかけてしまう恐れもあります。

相手(債権者)に連絡してはいけない

上記のリスクを避けるためにも、時効援用を行う場合、“債権者に、自分で直接連絡しない”ことが鉄則となります。

つまり時効援用を自分で行う場合、債権者に連絡せずに、債務状況の判断を正確に行う必要があります。

自分で行う時効援用には、訴訟リスクがある

相手である債権者の立場になって考えてみましょう。
「そろそろ時効だ」という事は、相手もプロの業者ですから、しっかりと把握しています。時効管理という、金融業の基本的な業務の一つです。

「このままだと時効が成立してしまうから、阻止しよう」…と、考えるわけですね。

時効援用を阻止する手段はいくつもありますが、その中には訴訟も含まれます。また、消滅時効援用通知書が送られてから、“時効は成立していない”との主張をもとに、訴訟を起こされることもあります。

時効援用を阻止するため
時効援用通知書を撤回させ、無力化するため

といった目的で、訴訟を起こされるリスクがあるわけです。


“時効援用を行う”という事は、“金融業界のプロ業者を相手に、法的手段で、真っ向から対立する”ことを意味します。時効援用も法的手段の一つですから、対抗する相手も、訴訟などの法的手段を使ってくることは、何もおかしくありません。

従って、自分で時効援用を行う場合、“プロ相手に法的措置で争う”覚悟や準備も、しっかり整える必要があります。

★弁護士や司法書士・行政書士に依頼した場合、訴訟リスクはほとんど無くなる

訴訟というのは、むやみに起こすものではありません。
相手はプロですから、当然、「勝てる見込み」を計算した上で、訴訟を起こすかどうか判断します。

自分一人で時効援用を行う場合、相手からみれば“勝てる見込みが高い”わけです。企業の顧問弁護士が、素人に法的手続きで負けることは考えられません。

しかし、こちらに弁護士や司法書士・行政書士といった、法律や法務のプロがついていれば、話は違います。
例えるなら、ネコ一匹を相手にするのと、ライオンに守られたネコを相手にするのとでは、ケタ違いの差があるわけです。

そのため相手としても、

「法律のプロがついているなら、訴訟はやめよう」
「このまま時効援用を通させたほうが、コストが安い」

と、総合的に判断するでしょう。
こうした理由もあって、時効援用は、自分で行わずに弁護士・司法書士・行政書士に依頼したほうが、成功率が圧倒的に高くなります。

時効援用に強い弁護士・司法書士

時効援用を自分で行うのは、現実的ではない

時効援用を自分で行う場合のポイントを、改めてまとめてみましょう。

:債務状況の確認
:法律や判例に基づき、時効援用ができるかの判断
:時効援用通知書の起案・作成
:時効援用通知書の送達
:債権者からの反論・援用撤回勧告・訴訟に対処

…こうした手続きを進めつつ、同時に、

債務承認による時効の中断、時効援用権の喪失を回避する
債権者に、訴訟などで時効を阻止される前に、時効援用を成立させる
時効援用を成立させた後の、反論・援用撤回勧告・訴訟を退ける
家族や職場に迷惑が掛からないよう、しっかり守る

…といった立ち回りも必要になります。
私たち一般人が、日々の生活や仕事を営みながら、こうした高度な法律事務を進めることは、とても現実的ではありません。

時効援用が、法的な効力を発揮するために必要となるのは、確かに「内容証明郵便を送るだけ」です。
ですが、現実に時効援用を成功させ、相手からの反撃を退けることを考えると、とても「内容証明郵便を送るだけ」とは言えません。

弁護士や司法書士・行政書士(法律の専門家)に依頼すると…

先ほどもお話したとおり、時効援用を自分で行った場合、訴訟リスクが非常に高くなります。ですが、弁護士・司法書士・行政書士に依頼した場合、訴訟リスクはほとんどありません。

「調べた結果、まだ時効ではなかった」という場合もあります。こうした場合も、弁護士や司法書士なら、“債務整理”に切り替えて、返済の減額・免除を行うことができます。

こうした違いを表にまとめると、次のようになります。

  自分で行う場合 専門家に依頼した場合
手続き 1:債務状況の確認
2:法律や判例に基づく判断
3:時効援用通知書の起案・作成
4:時効援用通知書の送達
5:債権者からの反論・援用撤回勧告・訴訟に対処
ほとんどお任せで進めてもらえる
リスク ・訴訟リスクが高い
・時効援用権の喪失、時効の中断を招く恐れがある
・訴訟リスクはほとんど無くなる ・援用失敗の危険性もほぼ無し
まだ時効でない場合 ・対処方法なし ・債務整理による返済減額や免除

手続きにかかる手間や負担
生活や仕事との両立
求められる知識や実務能力、専門性
訴訟回避などのリスク管理
まだ時効でなかった場合の解決策

…どの点から考えても、時効援用は、自分で行わずに弁護士や司法書士・行政書士に依頼したほうが良いと言えます。

どうしても依頼をしたくない場合も、せめて無料相談だけは利用して、アドバイスをもらったほうが良いでしょう。

時効援用に強い弁護士・司法書士

消滅時効援用通知書の書き方・内容証明郵便の送り方(イメージ)

ここまで解説した通り、当サイトとしては、時効援用を自分で行うことは、決してオススメできません。
あくまでイメージを掴む参考として、内容証明郵便や時効援用通知書の書き方をまとめていきます。

時効援用通知書のイメージ画像

まずは、時効援用通知書のイメージ画像を見てみましょう。
内容証明郵便(縦書き)の書式で作成した場合、このようになります。


内容証明郵便は、既定の書式で作成する必要があります。

縦書きの場合
・1行あたり26文字以内、1ページあたり20行以内

横書きの場合
以下のいずれかになります。
・1行あたり20字以内、1ページあたり26行以内
・1行につき13字以内、1ページあたり40行以内
・1行につき26字以内、1ページあたり29行以内

この範囲内に行数・文字数が収まっていれば良いことになっています。また、赤い枠線は必ずしも必要ではありませんが、心理的効果のために、内容証明用紙ではこうしたデザインが用いられる事が一般的となっています。

用紙の入手方法や、内容証明郵便の送り方などは、後ほど解説します。

時効援用通知書の文例と記載内容

続いて、文例の内容を見てみましょう。

時効援用通知書

平成○○年○月○日

東京都○○区○○
○○債権回収株式会社
代表取締役 ○○ ○○殿

東京都○○区○○
○○ ○○ 印
電話番号 000-0000-0000


前略 貴社より債務の返済を請求されておりますが、当該債務は既に時効が完成しており、時効の中断事由も見当たりません。。

契約番号:○○○○-○○○○-○○○○
借入人氏名:○○○○(ふりがな)
生年月日:昭和○○年○月○日
住所:神奈川県○○市○○
当初借入額:○○万円

よって、本通知書をもって上記貸金債権について、消滅時効を援用しますので、その旨ご通知いたします。

貴社におかれましては、本書面を受領後速やかに信用情報機関宛てに適切な通知を行い、登録された事故情報を抹消されますよう、併せてお願い申し上げます。

時効援用通知書に書く内容(必須事項)

時効援用通知書は、次の内容が必ず必要になります。

日付
債権者名、事務所所在地、代表者氏名
差出人(援用者)の住所氏名、連絡先などの情報、押印
債権の内容を特定する情報
時効が完成していることの主張
「時効を援用する」という明確な意思表示

もう少し詳しく、内容を見ていきましょう。

日付

時効援用通知書を送る日の日付になります。
時効の期間が過ぎる前に、時効援用通知書を送っても、時効は成立しません。

「いつ時効援用を行ったのか」をめぐって、争いになることもあります。時効援用を行った日が、時効完成よりも前の場合、この書類が“債務承認”と捉えられ、時効成立が阻止される可能性もあるためです。

実際に、こうした日付のトラブルで、時効援用に失敗してしまった事例もあります。以下の記事でご紹介しています。

債権者名、事務所所在地、代表者氏名

債権者の名前(事業者名)、所在地、および代表者氏名です。
実際にお金を借りた相手と、現在の債権者が異なる場合もあります。

たとえば、サラ金A社から借りた借金でも、債権回収会社B社に債権譲渡譲受されている場合、現在の債権者はサラ金A社ではなく、債権回収会社B社となります。

ここを間違えると、いくら時効援用通知書を送っても、まったく意味がありません。逆に、「時効援用をしようとしている」と警戒され、訴訟を起こされるリスクもあります。

差出人(援用者)の住所氏名、連絡先などの情報と押印

自分の住所、氏名、連絡先の電話番号です。
こちらも正確に記す必要があります。時効援用の第一援用権者は、「直接利益を得る当事者」とされているからです。

なお、この時効援用権者の議論は古くから続いており、大法廷明治43年1月25日、大法廷昭和8年10月13日、最高裁昭和43年9月26日、最高裁昭和51年5月26日、最高裁平成11年10月21日…と、実に100年以上も、判断が変化し続けています。(参考:消滅時効援用の行政書士 飯田橋総合法務オフィス )

債権の内容を特定する情報

簡単に言えば、“どの借金に対して時効援用を行うのか”という事です。これをハッキリさせるためには、次のような情報が必要になります。

  • 契約番号
  • 借入日
  • 当初借入金額
  • 借入人氏名、住所、生年月日

手元に契約書と取引明細が残っていれば、そうした書類から特定できるでしょう。

時効が完成していることの主張

「もう時効になっている」ということです。

具体的に、「最終返済日の翌日から○年が経過しており、」といった文言をつけるほうが良いでしょう。ただし、時効の起算点については、今後法律が変わるため、将来的にどのように書くのが適切なのかは、改正民法施行後の専門家の判断を待つ必要があります。

「時効を援用する」という明確な意思表示

もっとも重要なポイントです。これが無ければ、他になにを書いても時効援用通知書として成立せず、時効援用できません。
とはいえ内容としてはシンプルで、「本書をもって消滅時効を援用する」といった趣旨が宣言されていれば良いことになっています。

個人信用情報機関の情報抹消についても、書いておくほうが良い

簡単に言えば、「ブラックリストの情報を消して下さい」という意味になります。ただし、ブラックリストというのは俗語ですので、正式な書面では用いられません。「登録された事故情報を抹消」といった言い方になります。

なお、このブラックリスト解除の要請は、時効援用の法的効力ではありません。そのため、この点については「お願い」に留まります。また、実際にどう対処されるかは、債権者の傾向や、加盟信用情報機関の方針によっても違います。
こうした判断は、時効援用の実務経験が無いと、適切に行うのは難しいでしょう。

なお、時効援用とブラックリストの関係は、次の記事で詳しく解説していきます。

消滅時効時効援用通知書の、内容証明郵便での送り方と料金

時効援用通知書は、内容証明郵便で送る必要があります。

内容証明郵便とは、「その内容の郵便物を発送した」という事が、郵便局によって証明される仕組みです(郵便法第48条)。[4]
また、内容証明郵便を送る場合、同時に“配達証明”もつけるのが一般的です。配達証明は、「その郵便物を、確かに配達した」という証明を、郵便局が行うものです(郵便法第47条)。[3]

内容証明と配達証明が無ければ

「そんな郵便は届いていない」
「そんな内容の郵便物ではなかった」

と相手に主張されると、反証が難しくなってしまいます。
そのため、法的な争いの場合は、重要文書のやり取りは内容証明・配達証明をつけて行う事になります。

時効援用も、法的な争いの一種ですので、時効援用通知書も内容証明・配達証明によって送付します。

郵便局の窓口で手続きを行う

内容証明郵便を送る手続き自体は、それほど難しくありません。送付用と、郵便局での保管用に、同一の郵便物を2通作って郵便局に持っていきます。自分の手元保管用も合わせて、同じものを3通作ることになります。

内容証明郵便・配達証明郵便の料金

通常の郵便料金のほか、以下の料金が掛かります。

  • 書留料金;430円
  • 内容証明料金:430円(2枚目以降は、1ページごとに追加で260円)
  • 配達証明料金:310円
★時効援用通知書は、かんたんに作れるものではない

最後に繰り返しとなりますが、時効援用通知書は、そう簡単に作れるものではありません。
できあがった書類自体はシンプルに見えても、その記載内容は、厳密な調査・債務状況の確認・厳格な法的判断に基づいて作成されます。

何より時効援用は、「書類を作って送れば、それで全てOK」という話ではありません。

時効援用は、民法などに定められた、厳格な法的手続きである
時効援用を行うことは、プロである金融業者(と、その顧問弁護士)を相手に、法的手続きを行うことである

…といった、時効援用の性質をふまえれば、決して自分一人で行えるものではありません。

「時効で借金返済やローン返済を無くしたい」
「昔の返済について、督促を受けている」

といった場合は、かならず、時効援用に強い弁護士・司法書士に相談しましょう。

時効援用に強い弁護士・司法書士

 

脚注、参考資料

-時効援用

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